1.はじめに次の2種類の調査を行いました。 ・鬼怒川中流域におけるカゲロウ類の発生状況について ・鬼怒川上・中流域における幼虫の生息状況について 2.鬼怒川中流域におけるカゲロウ類の発生状況について目的栃木県のほぼ中央を流れる鬼怒川において、1978年と1979年の9月に「アミメカゲロウ(Ephoron shigae Takahashi)」が大量羽化しました。我々は昨年までそのアミメカゲロウを中心に調査を行ってきましたが、今年はそれ以外の水生昆虫についても発生状況の調査を行うことにしました。 調査対象とした水生昆虫昨年まで調査対象の中心でだったアミメカゲロウの他、チラカゲロウ、エルモンヒラタカゲロウ、キイロカワカゲロウ、ムスジモンカゲロウ、ヒゲナガカワトビケラの6種。 調査場所栃木県宇都宮市石井町の新鬼怒橋下の河原(下図参照)において調査を行いました。
調査方法
4月~12月の間、1週間に1度くらいの割合で日没前後の1時間、ライトトラップによる調査を行いました。ライトトラップとは、水銀灯を点灯させその光に集まる昆虫を採集する方法で、図のように水銀灯の後ろに白い布、下にアルコールを浸したバット(容器)を置き、その中に落ちた昆虫を採取しました。それと並行して周辺に集まる昆虫の様子・種類・量等を観察し、調査時の気温・水温・水量・天候も記録しました。水量については河原の土手に設置された水位観測目盛りを読み取りました。 結果
4月~12月にかけて計37回の調査を行いました。9月中はアミメカゲロウの発生状況を詳しく調査するために12回行いました。調査時における気温・水温の変化は図4の通りです。次で各種の発生状況について水量の変化とあわせてグラフ化しました。 チラカゲロウ(採取数:32968)
年2世代のカゲロウといわれていますが、図5を見て分かるように長期にわたり発生していたため、年1世代とも言える結果となりました。水量の変化との関連性は見つけられませんでした。 図6より、オスよりもメスの発生量の方が多いことが分かりました。 図7より、9月の下旬までは成虫の方が多く、10月に入ると亜成虫の方が多くなっていました。 エルモンヒラタカゲロウ(採集数:14049)
本種は5~8月と9~11月に発生する年2世代のカゲロウです。 図8より、6月中旬~8月中旬に1世代目、9月頃に2世代目が発生しているようにも見えますが、はっきりとしたことは確認できませんでした。また、水量が増加したときに発生量が減少していました。水量の多かった5月下旬・9月上旬・10月上旬にはほとんど発生していませんでした。 図9より、チラカゲロウ同様オスよりもメスの発生量の方が多くなりました。 キイロカワカゲロウ(採取数:7305)
初夏から秋にかけて発生する年1世代のカゲロウです。今回の調査でも6月~9月頃まで発生が見られました。また、エルモンヒラタカゲロウと同様に水量が増加したときに発生量が減少していました。 ムスジモンカゲロウ(採取数:1782)
春から夏にかけて発生する年1世代のカゲロウです。今回の調査でも5月下旬~10月上旬まで発生が見られました。発生のピークは8月下旬~9月上旬でした。また、水量増加時には発生量が減少していました。 アミメカゲロウ(採取数:9)
発生のピークと思われる時期に悪天候により調査を行うことができませんでした。発生時期は昨年の結果とほぼ同じでしたが、確認頭数は昨年の4分の1程度でした。 ヒゲナガカワトビケラ
調査を開始したときに特に目立っていたため、この種についても発生状況を調べました。 考察チラカゲロウとエルモンヒラタカゲロウの発生状況について今回の調査では年2回発生する様子は確認できませんでした。これを調べるにあたっては、幼虫の調査を並行して行う必要があり今後の調査に期待したいです。 水量と発生量の関連性についてエルモンヒラタカゲロウ・キイロカワカゲロウ・ムスジモンカゲロウについては、水量が減少したときに発生量が増加する傾向が見られました。しかし、グラフでは水量が増加しているように見えても実際には減少している途中であるということも考えられ、今回のデータだけでは関連があるかどうかは判定できないため、今後詳しく調査していきたいと考えています。 成虫と亜成虫の比率について図7を見ると4月~9月までは成虫の割合の方が圧倒的に多く10月に入るとそれが逆転しているのがわかります。しかし、現状では他の種や前年の調査との比較ができないため、今後もデータを集めていく必要があると考えます。 オスとメスの比率について図6・図9を見ると、オスよりもメスの発生量の方が多いことがわかります。ただし、9月上旬はオス・メスともに同じくらいの割合で確認されており、今回の調査だけでは何とも言えませが、「メスの方が光りに集まりやすい」「メスの方が数が多い」「メスの方が寿命が長い」等、何らかの理由が考えられるのではないでしょうか。 3.鬼怒川上・中流域における幼虫の生息状況について目的水生昆虫の生態についてより深い理解を得るために、幼虫期の生態についても知る必要があると考えました。とりあえず今年は次の2点を調査の目的としました。 ・定量的調査法を試行することで、幼虫の採集方法や生活環境について知る。 ・鬼怒川に生息している幼虫の種・頭数・生息地域などを調べ、幼虫の生息分布について知る。 調査地点自家用車で進入可能な鬼怒川の最上流地点から成虫の調査を行った新鬼怒橋との間に約10kmおきに9ヶ所の調査地点を設定し、上流から順にA~Iまでのアルファベットで表しました。
調査日時A・D・E地点は8月16日、B・C・F・G地点は8月17日、H・I地点は8月25日に調査を行いました。調査時間は午前10時~夕方にかけての間です。 調査方法各調査地点において河原に近い流れの緩やかなところと、川の中心付近の流れの速いところの2ヶ所でコドラート法を行いました。 水底に50cm×50cmの正方形の枠(コドラ-ト)を定めて、その面積内の水生昆虫を採集する方法で、面積内にある石などをすべて取り上げ、これらに付着している水生昆虫を採取しました。更に石を持ち上げる際に水中に落ちてしまった昆虫を捕らえるため、コドラートの下流側にネットを張り、その中に流れ込んだ昆虫も採取しました。 調査結果・考察調査地点について河原の広さや石の大きさ、水温、水量・流速などには違いがあるため、採取される種類や数に片寄りが出てしまうのではないかと心配していましたが、最初に述べた目的を達成できるだけのデータは得られました。しかし、中には明らかに不自然な結果の出た調査地点もあったので、その理由について考察します。
採集された昆虫について種の特定ができなかったもの(34頭)も含め、30種以上計833頭の水生昆虫を採取しました。目別に分類すると、カゲロウ目・トビケラ目・カワゲラ目・双翅目・トンボ目の5目に分けられました。双翅目(全てサナギの状態)とトンボ目については種の特定ができなかったため、今回は詳しく触れないことにしました。
カゲロウ目(約20種559頭、全体の約68.3%)
トビケラ目(3種174頭、全体の約21.4%)他のの2目の幼虫と比べると非常に独特な体型をしているため、容易に見分けがつきます。採集量が多い割には種が少ない結果となりました。
カワゲラ目(6種30頭、全体の約3.6%)採集量は少なかったが、日本全土に分布しており、現存する有翅昆虫のうちで最も原始的な昆虫の1つです。
4.おわりに今年の調査内容は我々班員にとって初めての経験であったため、どのような結果が得られるのか予想がつかず手探り状態での調査となってしまいました。成虫の調査については9月上旬の天候が悪く、思うように調査が行えなかったためにその間のデータが不足してしまったことが非常に悔やまれる点です。幼虫の調査についても最初に計画を立てた時点でもう少し調査内容等について話し合い、検討を重ねていれば更に充実したデータが得られたと思われます。しかし、今回は幼虫の調査を2日間の合宿という形で行ったことは班員相互の理解を深める上で非常に有意義なものでありました。また、採取したアルコールづけの昆虫が想像以上に膨大な量となってしまい、その中から研究対象であるカゲロウを同定・カウントする作業に多大な労力を費やすこととなってしまったことも反省すべき点でした。このようにさまざまな問題点が生じたにせよ、成虫・幼虫の調査共に、始めに立てた目標をある程度達成できたことについては班員共々喜ばしく思っています。今年明らかになった問題点については、検討を重ね今後の活動に役立てていきたいと考えています。 最後になりましたが、生物研究会顧問の中村先生をはじめ、ご協力いただいた皆様に感謝の意を表し、終わりとさせていただきます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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